日本の大学入試制度の役割と問題点:人材の育成と選別の観点から
今回のプロジェクトは「日本の大学入試制度が人材の育成と選別のために果たしている役割と抱えている問題点は何であろうか。」という問いに答えることを目的とする。具体的には、Ⅰ)日本の大学入試の特徴である国公立優位の偏差値構造がもたらす社会的影響の分析 Ⅱ)共通一次導入の長期効果の分析 Ⅲ)学歴と社会的成功の関係の分析 Ⅳ)現在の日本の大学入試の効率性の分析 Ⅴ)2020年度高大接続改革の与える国公立・私立間の偏差値格差への影響 という5つのテーマに対して、10年間かけて作り上げてきたデータと、データ分析のために開発してきた新しい分析手法を使って研究を進めていく。
(1) 今回のプロジェクトを通じて明らかにしたい「問い」:
情報技術の発展、経済のグローバル化、人口の高齢化といった急速に変動する時代の中で、変化に対応できる人材の育成が強く求められている。そういった中、文部科学省は2020年に大学入試改革を企図し、知識の暗記・再生をベースとした画一的な試験からの脱却を図ろうとしている。だが、共通一次の導入を出発点として現在にまで続く現行の入試制度のあり方が一体どの程度人材の育成と選別に役立ってきたのかということに関しては定量的な研究は乏しい。特に、共通一次以降の入試制度を経験した世代は、現在56歳よりも若く、リーダーとしての活躍はこれからである人が多いため、共通一次の導入が、リーダーの育成・選別に与える効果に関しての研究はこれからであるといえる。果たして日本の大学入試制度が人材の育成と選別のために果たしている役割と課題は何であろうか?
(2)
本研究の目的:
大学入試のデータをマクロ・ミクロ両面から分析し、社会が求める人材を輩出するうえで日本の大学入試制度が果たしている役割と抱えている問題点を整理することを目的とする。
(3)
本研究の特徴:今回のプロジェクトの特徴は次の4点にまとめることができる。
(ア) 数々の社会的に重要な先駆的テーマの分析:
① 大学入試改革の長期的効果の分析:共通一次導入がリーダー層のうけてきた教育に与えた効果を分析する。
② 国公立優位の偏差値構造がもたらす日本社会への影響の分析:日本の大学入試の特徴の一つは、定員に強い規制のかかる国公立が私立よりも偏差値が高いことであると考えられる。この定員規制のため、例えばサービス業が増えることで特定学部の教育需要が増えたとしても、その学部定員を増やすことが容易にできず、偏差値の高い層に対する教育が産業の変化に対応できていない可能性がある。
③ 日本の大学入試制度の非効率性の分析:日本の大学入試のもう一つの特徴は、国公立は一校しか応募できず、一発勝負の入試結果で合否が決定するということである。このため、不運に基づく浪人にみられるように、様々な非効率性を生み出している。本研究では、模試・大学入試のデータを使い現行制度の非効率性を分析する。
(イ) ユニークなデータの蓄積:大学入試改革の長期的効果を分析するためには、出身大学とその後の人材のキャリアをマッチさせたデータが欠かせない。次のセクションで具体的に記すように、我々は10年かけて日本のリーダー層の学歴と人材配置の関係を分析するために必要なデータを蓄積してきた。このユニークなデータを用いることで、他のデータでは発見不可能な貴重な事実を提示することができる。
(ウ) 新しい手法:我々は、構築してきたデータから意味ある情報を引き出すために、人事データや入試データを分析するための新しい手法を数多く開発してきた。(ジョブランクの測定方法、人事データのセレクションバイアスを除去する方法、大学入試の構造推計プログラムの開発等)今回のプロジェクトでは、そういった過去の地道な研究成果を使って分析を行う。
(エ) 政策的重要性:2020年度に計画されている高大接続改革の成否を考えるためには、過去の入試制度の分析に加えて高大接続改革の前後において収集された偏差値データ等の分析が欠かせない。より建設的な政策提言を可能とするためのデータを蓄積し分析を進めていく。
(4) 具体的プロジェクト内容と研究体制:今回のプロジェクトでは、下記の5つのテーマについて、グループに分かれて分析を進めていく。
テーマ |
研究の内容 |
担当 |
I. 国公立優位の偏差値構造の社会的影響 |
(ア)偏差値決定モデル分析 (イ)国公立優位の偏差値構造と産業構造の変化 (ウ)国公立・私立偏差値格差の源泉 (エ)国公立優位の偏差値構造の社会コスト |
佐野、瀧井、新居 |
II. 共通一次と人材配置 |
(ア) 共通一次導入と日本のリーダー層(経営者・官僚・政治家)の出身大学・学部 (イ) 共通一次導入と上場企業へ就職した労働者の出身大学・学部 |
佐野、平田、岡澤、小嶋、瀧井 |
III.
学歴と社会的成功 |
(ア) 就職に与える学歴効果 (イ) 昇進に与える学歴効果 (ウ) 選挙に与える学歴効果 |
岡澤、平田、小嶋、瀧井、佐々木 新居 |
IV.
現在の日本の大学入試制度の効率性分析 |
(ア) 現行の大学入試制度の構造推計 (イ) 大学入試における模試 |
森、中嶋、北野、瀧井 |
V.
2020年度高大接続改革の経済分析 |
高大接続改革の国公立・私立偏差値格差、 大都市・地方偏差値格差への影響 |
瀧井 |
データ整備活動:
データ整備 |
1) 就職活動データの充実と整備 2) 公務員・政治家データの拡充 3) 2020年に向けて大学入試データの拡充整備 |
瀧井、小嶋、岡澤、佐野 |
(5)
プロジェクトメンバー:
(ア) プロジェクトリーダー
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授 瀧井克也
(イ) プロジェクトメンバー:
大阪大学経済学研究科 佐々木勝
慶應義塾大学経済学部教授 中嶋亮
千葉大学社会科学研究院准教授 佐野晋平
青山学院大学国際マネジメント研究科准教授 北野泰樹
大阪市立大学大学院経済学研究科准教授 岡澤亮介
立命館大学総合心理学部准教授 森知晴
高知工科大学経済・マネジメント学群講師 新居理有
神戸国際大学経済学部講師 平田憲司郎
関西大学経済学部助教 小嶋健太
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