日本型人材選抜システムの定量分析


 

(概要) 2020年大学入試改革が挫折した。また、2021年には経団連による「就活ルール」が廃止された。これらは明治以降長年かけて出来上がった日本型選抜システムは、一朝一夕には変革できないものであることを示している。変革の障壁を理解するには、今一度冷静にその歴史的起源にまでさかのぼりこのシステムを再評価してみる必要があるのではないか。その際に、このような人生の初期における選抜は技能蓄積・人的ネットワークの変化を通じて長期的な影響を引き起こす可能性があるという視点が大切である。本プロジェクトは長期効果の分析可能なデータを用いて大学入試・就活等の日本の選抜構造が果たしている役割と問題点を定量的に分析するという特徴をもつ。我々はこの特徴を生かし、(ア)大学入試を通じた選抜、()雇用を通じた選抜、(ウ) 日本型選抜制度の起源という3つのテーマに対し適切な手法を組み合わせながら定量分析する。 

 

(1)      本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」:

2020年の大学入試改革が挫折した。また、2021年には経団連による「就活ルール」が廃止された。このことは日本型選抜システムを変革する必要性は理解されつつも、変革に伴う社会的コストが非常に大きいことを示唆している。社会的コストを正確に把握するためには、現在の大学入試や新卒市場が日本社会における人材の選抜の中で担っている役割を定量的に理解する必要がある。大学入試・新卒一括採用といった日本型選抜システムが人材の選抜のために果たしている役割と問題点は何か? その選抜システムは近代社会の成立の中でどのように出来上がってきたのか? このような問いに答えるために、どの程度定量的な証拠を提示できるのか?これらが本プロジェクトを貫く学術的「問い」である。

(2)             本研究の目的および学術的独自性と創造性:

大学入試を通じた選抜雇用を通じた選抜日本型選抜制度の起源という3つのテーマを定量的に分析し、日本型選抜システムの長所と短所の理解の深化に役立てることを目的とする。以下、より具体的な目的をテーマ別に述べ、独自性・創造性について記す。

(ア)      大学入試を通じた選抜

      リーダー選抜と大学入試:元来帝国大学設立の主たる目的は、官僚となるべき優秀なリーダーを選抜し教育することであった。リーダー選抜に必要な入試の条件は何か。その問いに答えるために、国公立大学(以下、国公立)に入学するために5教科7科目といった幅広い知識が必須となった共通一次導入がリーダーの輩出に与えた効果を分析する。この分析は長期データなしには不可能であり他に先行研究がない。

     国公立大学定員の硬直性の経済効果:国公立大学は定員に強い規制があり、大学教育に対する需要の変化に国公立が対応できていない可能性がある。このことはどれくらいの社会損失を生み出しているのであろうか。この手つかずの問に着手する。

(イ)      雇用を通じた選抜

      初職効果の男女比較:日本における初職の役割を再考する。初職が正社員であることの重要性を指摘する先行研究はあるが、その重要性は個人によって異なると思われる。特に日本型労働市場の副産物ともいわれる男女のキャリアへの影響の違いは重要だ。我々は初職の重要性の男女間の違いというものを男性内や女性内の個人差にまで注意を払いながら定量分析する。これにより既存研究に新しい論点を提供する。

      組織内での人材配置は選抜か人材形成か:組織内部でのローテーションが幹部の人材形成に役立っているという説は多い。しかし、人材育成効果を選別効果から識別することは困難な作業であり、分析が進んでいるとは言えない。私たちは、2007年から2020年までの省庁のデータを用い、操作変数法を使ってこの問題にチャレンジする。

      人材紹介企業の社員のインセンティブと転職市場の効率性:新卒一括市場が重要であることは、転職市場で優秀な人材を確保することが難しいということと裏腹な関係にある。転職市場での効率性を引き上げるために何ができるのか。本研究では人材紹介企業の社員のインセンティブの果たす役割に焦点を絞る。この社員のインセンティブが転職市場の効率性にどのように影響を与えるのかという分析は他に例がない。

(ウ)  日本型選抜制度の起源天野(2007)によると、近代選抜制度が整備されたのは優秀な人材を官僚として集めるためである。近世と近代を比較しながら、制度の発展をデータで検証する。その際に、官僚選抜から漏れた知識人の活躍にも目を配るため、知識人による特許の取得数も分析する。近世と近代の選抜制度の比較や選抜から漏れた知識人の役割を定量的に分析した研究は存在しない。

 

(2)     具体的プロジェクト内容と研究体制:今回のプロジェクトでは、下記の5つのテーマについて、グループに分かれて分析を進めていく。   

テーマ

研究の内容

担当

I.   大学入試を通じた選抜

(ア)リーダー選抜と大学入試

(イ)国公立大学定員の硬直性の経済効果

瀧井、佐野、新居

II.     雇用を通じた選抜

(ア)   初職効果の男女比較

(イ)   組織内での人材配置は選抜か人材形成か

(ウ)   人材紹介企業の社員のインセンティブと転職市場の効率性

瀧井、佐野、新居、小嶋、中村

III.    日本型選抜制度の起源

(ア)    江戸時代

(イ)    明治時代

瀧井、高槻、山崎、Braguinsky、柏原

 

(3)              プロジェクトメンバー:       

(ア) プロジェクトリーダー

大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授      瀧井克也

(イ) プロジェクトメンバー:

神戸大学大学院経済学研究科 准教授         佐野晋平

龍谷大学経済学部 准教授              新居理有

関西大学経済学部 准教授              小嶋健太

大阪大学大学院経済学研究科 特任研究員        中村文香

大阪大学社会経済研究所 特任教授          Braguinsky Serguey

京都大学大学院経済学研究科 准教授         山崎潤一

神戸大学経済経営研究所 准教授           高槻泰郎

関西大学経済学部 教授               柏原宏紀  

 


œ HOME œ

 

Osaka School of International Public Policy, Osaka University

1-3 Machikanayama, Toyonaka, Osaka, Japan, 560-0043
E-mail address:``takii at osipp.osaka-u.ac.jp''
(`at' has to be changed to `@')