研究課題名
正式名称:科学研究費補助金(基盤研究A)「グローバルなシンジケートローンの規律の相互作用・補完の研究
−取引実態・契約書・法」(研究課題番号:25245008)
研究期間:2013年度〜2015年度
正式名称:公益財団法人全国銀行学術研究振興財団「シンジケートローンに関する理論と実践の融合的研究」
研究期間:2012年度
◆シンジケートローン取引に関する実態調査アンケートについて◆
H24年度全国銀行学術研究振興財団の助成を得てシンジケートローン取引に関する実態調査
アンケートを実施いたしました。→報告書はPDFでご覧いただけます。
◆Report on Survey of the Status of Syndicated Loan Transactions◆
→2013 Survey on Japanese Syndicated Loan (Excerpts)
<調査の目的>
わが国のシンジケートローン市場は、残高ベースで約62兆円(平成25年3月末・全国銀行協会
の調査による)に達しているにもかかわらず、これまで、シンジケートローン市場における取引の
実態については、必ずしも十分な調査がなされてこなかったといってよいように思われます。
今回の調査は、主として法的な観点から、現在のわが国のシンジケートローン市場の現状と
課題を明らかにするために実施した。特に、法的な観点から検討する意義が大きいと思われる
アレンジや参加の意思決定のプロセス、ローン債権の譲渡、回収、契約書といった問題を取り
上げて調査を行いました。
今回の調査に御協力を下さった金融機関の方々には、心から御礼を申し上げます。
研究目的(概要)
この研究は、グローバル化したシンジケートローン取引について、国際と国内の標準契約書が存在するのはなぜかという問題意識のもとに、@国際標準契約書とA国内標準契約書をB個別契約と取引実態に基礎をおく比較法の方法により調査・分析し、(a)@とA、(b)AとB及び(c)Bと日本法の間の『乖離の所在』と『その理由』を明らかにする。
その上で、(a)(b)(c)相互の乖離の所在と理由について、組成と流通の2つの市場に跨るシンジケートローンを最適に規律する方法を借入人や投資家の利益を考慮して検証し、比較契約書コメンタリーとして具体的な改革案を提示する。
1.研究の学術的背景
(1)本研究に関連する国内外の研究動向と位置づけ
シンジケートローンとは、借入人の依頼を受けた銀行が複数の銀行によるシンジケートを組成し、全参加銀行が借入人との間で1つの契約書によって融資契約を締結する融資である。北川善太郎「国際ローン契約の国際化」(1981)は、日本の国際ローン契約書は日本法を準拠法としながら英米法の用語で書かれており契約書と現実の法が乖離しているとして、現実の法を契約に近づけるべく、国際ローン契約に関する日本法の国際化を主張した(図1のT)。
図1 国際標準契約と国内契約の距離(矢印向きが「動き」を表す)
しかし今やシンジケートローンはグローバル化し、標準化した。日本においては金融危機の影響も少なく、2011年度には債券による資金調達(8兆円)の3倍(25兆円)の規模となっている。第1に、日本の銀行も外国の借入人に対する「国際ローン」だけではなく、日本の借入人に対する「国内」シンジケートローンの組成を競うようになった(グローバル化)。第2に、日本ローン債権市場協会
(JSLA)は、平成13年度と15年度に日本法を準拠法とする2種類の標準契約書(国内標準契約書)を作成している(標準化)。これらについては日本法に基づいた注釈や解説書も公表され、契約書が現実の法に近づいている(図1U.(c)⇒)。
他方、標準化は英国のLoan Market Association(LMA)や米国のLoan Syndications and Trading
Association (LSTA)などの業界団体が作成した国際的な標準契約書によってリードされている。しかし、日本では国際標準契約書を日本法に近づけ国内化したため、国際標準と国内標準及び日本法との距離と理由(図1U.)を問題とした研究はない。また、国内標準から離れた個別契約/取引実態が借入人にとって有利か不利かを問う研究もみあたらない。
本研究は、日本における主要な資金調達方法であるシンジケートローンについて、法と契約書の関係に力点を置いた従来の発想に加え、当事者利益を含む標準契約書と個別契約/取引実態の動的で相互補完的な関係に着目し、それぞれの相互変容可能性を明らかにする。
(2)着想に至った経緯
応募者は、:2007年度〜2010年度基盤A研究「金融取引のグローバル化とローカルな法的責任−モデル契約書による架橋の試み」の分担者としてグローバル化したシンジケートローンとローカルな国内法のギャップを契約で架橋するという発想にたち契約解釈と法的ルールを検討した結果、次の知見を得た。
(ア) 英国のLMAによる標準契約書には、借入人の所属する国と契約準拠法の相違によって標準契約に英語版、フランス版とドイツ版があるが、日本版はなく、国際と国内の区別もないこと。
(イ) JSLAの標準契約書ではLMA契約書との比較はされていないこと。
(ウ) LMAの標準契約書は、借入人の代表である企業財務担当者団体が参加し、認可されているが、JSLAではそのような制度はなかったこと。
以上から、法を標準契約で補うという発想をさらに発展させ、国際的な標準契約書と国内標準契約書、国内標準契約書と国内的な個別契約及び取引実態との相違とその理由を解明し、そのうえで、乖離が合理的でない場合にはそれぞれについて必要な変化を提案するという着想を得た。
2.研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか
本研究では日本においてグローバル化したシンジケートローン取引について国内向け標準契約書が存在するのはなぜかという問題意識のもとに、「グローバルなシンジケートローンのローカルな変容」について、借主らの適切な利益を考慮に入れ、「乖離の限界と架橋の方法」を明らかにする。具体的には、つぎの(a)〜(c)を明らかにし、(d)を提案する(図1U.参照)。
(a)@国際的な標準契約書とA国内的な標準契約書との間の乖離とその理由 乖離の実態及びそれが借入人の所属国及び契約準拠法の相違に起因するのか、国際と国内の標準契約を区別する必要があるかを、アジア太平洋市場との比較を入れて解明する。
(b)A国内的な標準契約書とB個別契約書及び取引実態との間の乖離とその理由 乖離の実態及び標準契約書が法や取引実態にそぐわないのか、取引実態が当事者の利益を反映していないのかなどその理由を明らかにする。
(c)日本法の基本原理(強行法)が乖離に及ぼす影響 法が乖離に及ぼす影響を、実際の問題に即した比較法により、民法・会社法や金融商品取引法その他の規制法を支える信任義務、開示義務、集団的債権処理、属地主義などの基本原理(研究業績1)を強行法も視野に入れて中心に理論的に解明する。
(d)標準契約、取引実態及び法についての変容の必要性 当事者利益の衡平に配慮した契約条項など、標準契約、取引実態及び法についての改革・変容可能性について、最終的な成果を代表的な契約書式を比較した「比較契約書コメンタリー」のかたちでわかりやすく提案する。
3.本研究の学術的な特色・独創性及び予想される結果と意義
(1)標準契約の標準性と借入人の利益に着目 シンジケートローン契約に関する英米の主要文献は貸付人(銀行)の視点から書かれている。本研究は、標準契約の標準性を借入人の費用・便益も入れて検討し個別契約のあり方と法の適合性を分析する点で画期的であり、学術的な独創性とともに、社会的な意義を有する。
(2)法規ではなく現実から出発する比較法 英米の先行研究は、法と経済学に関する実証研究を除き、判例法及び判例中の個別契約の分析による文献中心の方法を採用している。また、すでにある紛争に関する今ある法(law
as it is)の比較にとどまっている。これに対して、この研究は、実態調査に基づき現在ある契約を比較し、ここからあるべき規律方法を解明するというきわめて特色のある方法(後述)を採用している。
(3)標準契約という共通の関心に基づく効果的な成果発表 日本法に対する世界的関心が低い現状では成果を単に英語で発信しても学問的通用性は高まらない。本研究はグローバルな標準契約を実態に即して比較して日本法の基本ソフト(OS)と比較し最終的な成果を「比較契約書コメンタリー」のかたちで英語で公表するので、共通の関心を有する広い層にアピールし、国際市場において正当に評価されることが期待される。その成果は、日本法には抵抗があるがその運用方法に関心のあるアジア諸国にも受け入れられる可能性が高い。最終的には、日本法の基本原理に基づく契約条項が標準化していくという実際的意義も大いに期待できる。
研究計画・方法(概要)
@集める 海外研究協力者及び連携研究者と協力し、国際的標準契約書と契約例に関する実態調査を行なうとともに、標準契約書とマニュアル及び実際の契約例の収集を行なう。
A分析・総合する @と下記Bを研究分担者の個別研究による結果と合わせて研究会で検討し、実際の契約条項と取引実態に基づき、民商事法、国際私法、国際取引法及び規制法に関する基本原理の比較を行ない、費用便益の視点を交えながら、シンジケートローン取引を規律するための最適の方法を探求する。
B共有し発信する @とAの結果を海外研究協力者とも共有しAにフィードバックするとともに、ニューズレターのかたちで適時に広報し、公表する。
1.研究方法及び各年度に共通の計画
@集める
【海外調査】
・海外研究協力者の協力を得て、国際的標準契約書と契約例及び紛争事例の聞き取り調査を行なう。欧州ではLMA、米国ではLSTA、さらにアジア太平洋ではAsia
Pacific Loan Market Association (APLMA)標準契約書の調査も実施する。具体的には、組成市場に関しては標準契約への変更及び担保の利用の有無と理由、流通市場に関しては債権譲渡及び証券化の有無を聞き取り調査する。また、通常は入手困難な標準契約書のマニュアルや実際の契約例なども、海外研究協力者及び連携研究者の協力を得て資料調査を行なう。
【国内調査】
・国内シンジケートローンの個別契約書と取引実態について全銀協の助成により来年度までに実施するアンケート結果に基づき、JSLAや銀行・借入側企業の関係者の協力を得て、都市銀行及び地域の金融機関に対する聞き取り調査を行ない、同時に実際の契約例などの資料調査を実施する。
A分析・総合する
【共同研究】・年4回開催の研究会で、@の結果を比較法(研究業績11、16、20、24〜29、31)と費用便益の視点(研究業績25小塚)を発展させ分析する。従来の制度や法規の一般的な比較ではなく、実際の契約条項や取引実態と法の基本原理を比較分析する。
・銀行実務家、法曹など外部の専門家の意見を聴取し、組成市場と流通市場の実務及び銀行法や金融商品取引法などの規制法に関する専門知識の提供を受け、さらなる分析を加えた結果を熟議により総合する。
・【海外セミナー】 下記B参照。
B共有し発信する
【成果の共有と自己評価】・海外研究協力者・連携研究者を含む研究体制でウェブサイトおよびメールによる情報共有及び進展状況に関する自己評価を常時行う。
【適時広報と成果公表】・成果を英語のNewsletterとして世界に情報発信し適時広報をするとともに、ディスカッションペーパーとして公開する。研究分担者は各自の所属学会や雑誌等において成果を発表するだけではなく、英語論文としてSocial
Science Research Network (SSRN) < http://ssrn.com/ >に投稿することで、学術的な国際的通用性を高める。
・海外研究協力者とともに、海外調査の際に同時に海外セミナーを開催して、研究に関する意見交換と成果発表をする。平成27年度は研究成果の報告に重点を置く。
2.平成25年度の計画
7〜9 月
・第1 回研究会開催 ・研究支援者雇傭(事務補佐員1 名、特任研究員2 名)・第1 次海外調査 ・海外セミナー(以上シンガポール・豪州)
・国内契約実態調査
10〜1 月
・第2 回研究会開催
2〜3 月
・第3 回研究会開催(今年度研究計画の評価と次年度研究計画の確認・調整)
3.平成26年度以降の計画
「1.研究方法及び各年度に共通の計画」及び「図2研究計画の流れ」に従って実施する。
・平成26年度には中間報告シンポジウムを開催して、成果を@他の法分野の研究者と実務家及びA市民に向けて発信し、研究に対するフィードバックと自己評価の参考にする。
・最終年度の平成27年度には成果報告シンポジウムを開催する。@研究成果を他の法分野の研究者と実務家に発信するセッションと、A研究の意義を市民に広く説明するセッションを設ける。
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